「ここまで自転車で何分かかるだろう」と地図を開いて、表示された時間を見て家を出たのに、着いてみたら5分も10分も遅れていた。自転車で移動する人なら、一度は経験があるはずです。距離を速度で割るだけの単純な計算のはずなのに、なぜか現実は追いつきません。
結論から言えば、自転車の所要時間がズレる最大の原因は「走っていない時間」を計算に入れていないことです。国土交通省の研究機関が実際に自転車で公道を走って計測した調査では、信号や交通のない試験走路で時速16.8kmだった軽快車が、東京の市街地では時速9.6kmまで落ちました。落差は7〜9km/h。しかもその時間の多くは、交差点で止まっている時間です。
この記事では、公的な実走データをもとに、距離別の所要時間の引き方、走る場所で変わる速度、Googleマップの予想時間との付き合い方、そして通勤・通学で「間に合う出発時刻」を逆算する手順まで、順を追って整理します。読み終わるころには、自分のルートの時間を自分で見積もれるようになります。
・国の実走調査が示す公道の平均速度と、信号のない状態との差
・1kmから20kmまで、4つの速度で引く距離別の所要時間の目安
・車道・自転車道・歩道で所要時間がどれだけ変わるか
・Googleマップの予想時間の読み方と、通勤通学の出発時刻の逆算手順
自転車所要時間が「距離÷15km/h」で当たらない理由

基本式で出るのは「走っている時間」だけ
所要時間の計算式そのものは単純です。距離(km)÷速度(km/h)×60=所要時間(分)。5kmを時速15kmで走るなら20分、という計算になります。多くのサイクリングマップやモデルコースも、この時速15km前後を前提にしています。国土交通省道路局と警察庁交通局がまとめた「安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン」でも、自転車道の屈曲部を設計する際に想定する通行速度として15km/h程度という数字が使われています。
問題は、この式で出るのがペダルを回している時間だけだという点です。実際の移動には、赤信号での停止、交差点での安全確認、歩行者を避けるための減速、駐輪場を探して停める時間が含まれます。これらは距離にはほとんど現れないのに、時間だけを確実に削っていきます。だから「距離÷15」で出した数字は、現実の到着時刻ではなく、あくまで走行だけに要する最短側の理論値だと考えてください。
逆に言えば、走っていない時間の量を把握できれば、所要時間はかなり正確に読めるようになります。そのための材料が、国の実走調査データです。
公道の平均は時速9.6km|国の実走調査が示した現実
国土技術政策総合研究所の研究チームは、東京都江東区の亀戸駅周辺に約5.0kmのコースを設定し、日常的に自転車を使う10〜50歳代の被験者に実際に走ってもらう調査を行いました。その結果、軽快車(いわゆるママチャリ)の平均旅行速度は9.6km/hでした。同じコースを電動アシスト自転車で走った場合も9.6km/hで、差はつきませんでした。
この9.6km/hという数字は、信号待ちを含めた「出発から到着までの平均」です。つまり所要時間を見積もるなら、この数字で割るのが最も現実に近い。5kmなら約31分、3kmなら約19分という計算になります。時速15kmで計算した20分(5kmの場合)とは、11分もの開きが生まれます。
ただし注意したいのは、この調査コースが自転車歩行者道の割合が高い都市部の設定だという点です。全体10,429mのうち自歩道が4,960m(47.6%)を占めていました。郊外の見通しのよい道や、信号の少ない河川敷ルートなら、これより速くなります。9.6km/hは「市街地を走る場合の下限側の目安」として使うのが実用的です。
旅行速度=出発地点から到着地点までの距離を、信号待ちなどの停止時間も含めた所要時間で割った速度。一方の自由旅行速度=道路幅員・交通量・信号などの外的要因の影響を受けない状況で走ったときの速度。所要時間の見積もりに使うのは前者、車体の性能差を比べるのに使うのが後者です。
信号のない試験走路なら16.8km/h|7〜9km/hはどこへ消えたか
同じ研究チームは、公道調査の前に、同じ被験者・同じ自転車を使って外的要因のない条件でも計測しています。舞台は国土技術政策総合研究所の1周約6.1kmの試験走路。ここでの軽快車の平均自由旅行速度は16.8km/h、85%タイル値は18.2km/h、最大値は21.7km/hでした。趣味でサイクリングをしていない一般の利用者が、ママチャリで信号のない道を走ると、これくらいの速度が出るということです。
公道の9.6km/hとの差は7〜9km/h程度。走る力が落ちたわけでも、車体が変わったわけでもありません。同じ人が同じ自転車で走って、環境が変わっただけでこれだけ落ちます。消えた時間の正体は、後で詳しく見る「交差点での停止」と「歩道での減速」です。
ちなみにこの調査では、男性17.1km/h・女性16.5km/h、10〜40歳代16.9km/h・50歳代16.3km/hと、性別や年齢による差は統計的に有意な差までは認められませんでした。所要時間を決めているのは脚力ではなく、走る環境のほうだということです。自分が遅いのではないか、と気にする必要はありません。

距離別の目安は3本の速度で引く|1kmから20kmまでの早見表
早見表は「幅」で読む|下限・標準・上限を並べる
所要時間を1つの数字で出そうとすると必ず外れます。そこで、公的な実走データで得られた4つの速度をそのまま列にして、距離ごとの所要時間を並べた表を作りました。左から順に、市街地の実測ペース(9.6km/h)、歩道中心のペース(11.6km/h)、車道中心のペース(14.5km/h)、信号のない状態(16.8km/h)です。
使い方は簡単で、自分のルートが「信号の多い駅前を通るか」「歩道を走る区間が長いか」で列を選ぶだけ。通勤通学のように遅刻できない移動なら一番左の列、河川敷や郊外の抜け道が中心なら右側の列を目安にします。実際の移動はこの幅のどこかに収まるので、いきなり大外しすることがなくなります。
注意点として、この表には駐輪場を探して停める時間、鍵をかける時間、着替えや汗を拭く時間は含まれていません。職場や学校まで含めた「ドアからドア」の時間は、ここに5分から10分を足して考えてください。
| 距離 | 市街地の実測 9.6km/h |
歩道中心 11.6km/h |
車道中心 14.5km/h |
信号なし 16.8km/h |
|---|---|---|---|---|
| 1km | 約6分 | 約5分 | 約4分 | 約4分 |
| 2km | 約13分 | 約10分 | 約8分 | 約7分 |
| 3km | 約19分 | 約16分 | 約12分 | 約11分 |
| 5km | 約31分 | 約26分 | 約21分 | 約18分 |
| 7km | 約44分 | 約36分 | 約29分 | 約25分 |
| 10km | 約63分 | 約52分 | 約41分 | 約36分 |
| 15km | 約94分 | 約78分 | 約62分 | 約54分 |
| 20km | 約125分 | 約103分 | 約83分 | 約71分 |
実は8割が5km未満|自転車が得意な距離帯
そもそも日本人が自転車で移動している距離はどれくらいなのか。平成27年全国都市交通特性調査をもとにした国土交通省の資料によると、自転車のトリップ長分布は1km以下が18%、1km超2km以下が27%、2km超3km以下が18%、3km超4km以下が10%、4km超5km以下が6%。5km未満で約8割を占めます。5km超10km以下は11%、10km以上は4%です。
この分布は所要時間の見積もりにも効いてきます。多くの人にとって自転車移動は30分以内で終わる話で、表の上半分(1〜5km)だけ見ておけば足ります。逆に片道10kmを超えると分布上は少数派で、参考にできる体感の情報も減ります。だからこそ数字で見積もる意味があるわけです。
同じ資料では、自動車の移動も5km未満が約4割を占めることが示され、この短距離帯が自転車への転換が期待される領域だとされています。つまり2〜3kmの移動は、車を出して駐車場を探す時間を考えれば、自転車のほうが速く着くことが珍しくありません。

5kmを超えると効いてくるのは速度より「止まる回数」
距離が伸びると、所要時間の誤差も比例して膨らみます。表を見ると1kmでは列による差が最大2分ですが、10kmでは9.6km/hと16.8km/hの間に27分もの開きが出ます。つまり長距離になるほど、どの速度で見積もるかの選択がそのまま遅刻するかどうかを左右します。
ここで効いてくるのが、走る速さより「何回止まるか」です。片道10kmの通勤ルートに信号のある交差点が30箇所あれば、1回あたり平均30秒待つとして合計15分。ペダルを速く回して縮められる時間より、ルート選びで減らせる停止のほうが大きい、というのは珍しくありません。
また、10kmを超えるあたりから疲労と休憩の影響も無視できなくなります。前述の試験走路調査では、約6.1kmの走行では疲れによる速度低下は見られませんでしたが、これはあくまで6km程度までの話です。それ以上の距離では、補給や信号以外での小休止も所要時間に織り込んでおくのが現実的です。
時間を持っていくのは距離ではなく交差点

延長15%の信号交差点が、旅行時間の30〜40%を占める
公道調査でもっとも重要な発見がこれです。コース全体のうち信号交差点部の延長は15%程度しかないのに、そこを通過するのにかかる旅行時間は全体の30〜40%を占めていました。距離の1割5分にすぎない場所が、時間の3〜4割を食っているということです。
この数字が意味するのは、所要時間の見積もりで見るべきなのは距離ではなく交差点の数だということです。同じ3kmでも、信号が5つのルートと15つのルートでは、体感でも実測でも別物になります。地図アプリで距離だけを比べて「こっちが近い」と判断すると、この差を丸ごと見落とします。
対策はシンプルで、通い慣れたルートの信号の数を一度数えておくこと。そのうえで「信号1つあたり平均30秒」を掛ければ、自分のルート専用の補正値ができます。これは他人のブログの平均速度より、はるかに自分の現実に近い数字になります。
幹線道路より裏道が速いことがある|細街路14.7km/hの意味
走行空間別の旅行速度を見ると、車道14.5km/h、細街路14.7km/h、自転車道14.4km/hと、この3つはほぼ同程度でした。細街路、つまり住宅街の生活道路が、幹線道路の車道と変わらない速度で走れているという点に注目してください。
裏道は道幅が狭く、路面も荒れていることが多いので、走行そのものの速度は上がりません。それでも旅行速度が落ちないのは、信号の数が少なく、止まる回数が減るからです。幹線道路は走り出せば速いものの、大きな交差点で長く待たされます。トータルでは互角、条件次第では裏道が勝ちます。
ただし裏道には、見通しの悪い交差点、一時停止の標識、飛び出しのリスクという別の代償があります。時間短縮のつもりで一時停止を無視すれば、指定場所一時不停止等として2026年4月1日からは反則金5,000円の対象です。裏道ルートは「速いから」ではなく「止まる回数が少なく、かつ安全確認できる道だから」選ぶ、という順番で考えてください。
信号の少ないルートを探す3つの手がかり
止まる回数を減らすには、地図の見方を変えるのが早道です。1つ目の手がかりは河川と鉄道の位置。河川敷の道や、線路沿いの側道は交差する道路が少なく、信号の密度が下がります。2つ目は幹線道路と平行に走る1本内側の道。距離はほぼ同じで、大きな交差点を避けられることがあります。
3つ目は、交差点の形です。信号のある交差点でも、右左折を伴わず直進で通過できる位置に自分の進路を置けるルートなら、待ち時間の期待値は下がります。逆に、大きな交差点で2段階右折のように2回待つ形になる経路は、それだけで所要時間が読みにくくなります。
ただし、信号が少ない道は交通量の少ない道でもあり、夜間は街灯が乏しく、見通しの悪い交差点も増えます。時間短縮のために選んだルートが、夜には別の顔を見せることは珍しくありません。朝と夜でルートを分ける、という選択も現実的です。
地図アプリで一番短い経路を選んだら、駅前のスクランブル交差点と大通りの信号を6つ通過するルートだった、というのがよくある失敗です。距離は300m短くても、信号待ちで5分多くかかれば意味がありません。原因は距離だけで比較したこと。対策は、候補ルートを2本走ってみて、実際の所要時間で決めること。1回計るだけで、その後何年も使える正確な数字が手に入ります。
走る場所が変わると、同じ距離でも所要時間は3割変わる
車道14.5km/h・自転車道14.4km/h・自歩道11.6km/h
同じ調査で走行空間ごとの旅行速度を比べると、自転車歩行者道(自歩道)だけが11.6km/hと明確に低く、統計的にも有意な差が確認されています。車道の14.5km/hに対して約3km/h遅い。5kmの移動に置き換えると、車道中心なら約21分のところ、歩道中心では約26分かかる計算です。
この差は毎日積み上がります。片道5kmを週5日、往復で通うなら、1週間で50分の違いです。所要時間を縮めたいなら、新しい自転車を買うより先に「歩道を走っている区間を車道に替えられないか」を検討したほうが効果が大きい、ということになります。
もちろん、車道が怖い、交通量が多いという場所を無理に走る必要はありません。判断の基準は速度ではなく安全です。ただ「歩道のほうが安全だから遅いのは仕方ない」と納得したうえで所要時間を長めに見積もるのと、知らずに車道基準の時間で家を出るのとでは、結果がまったく違います。
| 走行空間 | 平均旅行速度 | 5kmの所要時間 | 速度を決めている要因 |
|---|---|---|---|
| 細街路(裏道) | 14.7km/h | 約20分 | 信号が少ない反面、見通しは悪い |
| 車道 | 14.5km/h | 約21分 | 走行は速いが大きな交差点で待つ |
| 自転車道 | 14.4km/h | 約21分 | 連続していれば安定して走れる |
| 自転車歩行者道 | 11.6km/h | 約26分 | 歩行者の混雑と徐行が前提 |
| 公道全体(信号込み) | 9.6km/h | 約31分 | 交差点の停止時間が全体を押し下げる |
歩道が遅いのは、混雑と徐行が前提だから
自歩道で速度が落ちる理由は、研究の中でも分析されています。歩行者と自転車を同じ尺度に換算した「歩行者換算存在密度」が高くなるほど、旅行速度は下がっていく。平均値の近似式はy=-0.42x+13.85で、100平方メートルあたりの人が増えるほど、直線的に速度が削られていく関係が示されました。
つまり歩道の所要時間は、その日その時間の人出で変わります。同じ道でも、朝の通学時間帯と昼過ぎではまったく別の速度になる。「昨日は20分で着いたのに今日は28分かかった」という体感のブレは、脚の調子ではなく歩行者の数で説明できることが多いのです。
加えて、普通自転車が歩道を通行できる場合でも、歩道では車道寄りの部分を徐行しなければならず、歩行者の通行を妨げるときは一時停止する義務があります。徐行とは直ちに停止できる速度のこと。歩道を選んだ時点で、速く移動するという目的とは相性が悪い、と割り切って時間を見積もるほうが正確です。
歩道で稼ぐ数分は、3,000円に見合わない
時間に追われると、歩道を速度を落とさずに走り抜けたくなります。ただ2026年4月1日からは、16歳以上の自転車の交通違反に交通反則通告制度(青切符)が適用されます。歩道徐行等義務違反の反則金は3,000円、信号無視は6,000円、スマートフォンを手に持って操作する携帯電話使用等(保持)は12,000円です。
青切符は、警察官が実際に見て明らかに違反行為だと判断できる場合に交付され、反則金を納めれば刑事手続きに移行せず前科もつきません。逆に言えば、その場で切符を切られるハードルは以前より下がります。取締りを受けて説明を聞く時間まで含めれば、歩道を飛ばして稼いだ数分は簡単に吹き飛びます。
所要時間を短縮する手段として、速度を上げる方向は費用対効果が悪いということです。効くのはルート選び、出発時刻、そして次に見るような装備と車体の条件。急ぐことでしか間に合わないスケジュールを組んでいるなら、そこから直したほうが確実に早く着けます。
電動アシストやスポーツ車で、所要時間はどれだけ縮むのか
試験走路では18.6km/h、しかし公道では軽快車と同じ9.6km/h
電動アシスト自転車の自由旅行速度は18.6km/h、軽快車は16.8km/hで、信号のない試験走路では約2km/hの差がつきました。中央値は19.1km/h、85%タイル値は19.8km/hで、平均的な利用者にとってアシストが効いているのは間違いありません。
ところが同じ被験者が公道を走ると、電動アシスト車も軽快車も9.6km/hで並びました。信号で止まり、歩道で減速し、交差点で待つ時間は、モーターがあっても短くならないからです。研究では公道でアシスト車の優位性が確認できなかったとして、原因の分析が今後の課題に挙げられています。
もう1つ意外なのは、軽快車で速く走る人ほどアシスト車との速度差が縮み、軽快車で20km/h以上出している人はアシスト車に乗ると逆に速度が低下したという結果です。アシストの比率は速度が上がるほど下がるため、車重の重さだけが残る領域があるということになります。
時速24kmでアシストが切れる仕組みを知っておく
電動アシスト自転車の駆動補助機は、型式認定の基準で動作が決められています。人の力に対する補助力の比率は時速10km未満で2以下、時速10kmから24km未満では速度の上昇に比例して減少し、時速24km以上ではアシストしないこと。これが公道を走れる電動アシスト自転車の条件です。
この仕組みが所要時間に与える意味は明快で、平坦路で巡航速度を上げる用途にはアシストは効きにくい、ということです。効くのは発進、上り坂、向かい風、荷物が重いとき。信号の多い市街地は発進の回数が多いので、疲労という点では大きな差が出ますが、時計の上での短縮は限定的です。
体への負担で見れば差は明確で、厚生労働省の生活活動のメッツ表では、電動アシスト付き自転車に乗るのが3.0メッツ、時速16km未満の通勤の自転車が4.0メッツとされています。同じ距離を、より低い強度で移動できる乗り物だと理解するのが正確です。
実は、車体を替えても通勤時間はほとんど縮まない
意外と知られていないのですが、所要時間の観点でいちばん費用対効果が高いのは、車体でもタイヤでもなく「出発時刻を5分早めること」です。9.6km/hの世界では、5分は約800mに相当します。同じ800mを走って稼ぐには、平均速度を数km/h上げ続ける必要がある。どちらが簡単かは考えるまでもありません。
車体への投資が時間に効くのは、走行区間が長く、信号が少なく、坂やアップダウンがあるルートです。逆に、駅前の混雑した歩道を2km走るだけの通学路なら、高価なクロスバイクも量販店の軽快車も、到着時刻はほとんど変わりません。研究データはそれをはっきり示しています。
とはいえ、車体を替える意味がないわけではありません。同じ時間を、より少ない疲労で、より安定した姿勢で移動できるのは十分な価値です。ただそれを「時短のため」と説明すると期待が外れます。買う理由は正直に整理しておいたほうが、あとで納得できます。
車体より先に効く、所要時間の3つの調整
お金をかけずに所要時間を安定させたいなら、優先順位は明確です。1つ目は空気圧。抜けたタイヤは転がり抵抗が増え、同じ力で進む距離が短くなります。適正値はタイヤ側面に表記されているので、その範囲内で月に1回以上補充する習慣をつけてください。
2つ目はルートの固定です。毎日違う道を走ると所要時間が読めません。信号の少ないルートを1本決めて、そこを基準線にします。3つ目は出発時刻の固定。同じ時刻に出れば交通量の条件がそろい、日々のブレが小さくなります。所要時間の見積もりは、条件をそろえるほど精度が上がります。
逆に、ブレーキやハンドル周りを自分でいじって走行抵抗を減らそうとするのは順番が違います。安全に直結する部分なので、少しでも不安があれば自転車店に相談してください。時間短縮のために安全部品を触るのは、割に合わないリスクです。
Googleマップの到着予定時刻はどこまで信じてよいか
公式ヘルプが書いていること・書いていないこと
Googleマップのヘルプページには、車、公共交通機関、徒歩、ライドシェアリング、自転車、飛行機、オートバイでのルートを検索できると明記されています。自転車については「お住まいの国または地域で利用可能な場合」に使用できるという条件つきの記述で、地域によって提供状況が異なることが示されています。地図上の各経路には移動にかかる予想時間が表示される、とも書かれています。
一方で、その予想時間をどう算出しているかについては公表されていません。信号の待ち時間をどこまで織り込んでいるのか、勾配をどう扱っているのか、自転車の種類を想定しているのかは、利用者からは確認できないということです。
だから使い方としては、絶対値ではなく相対値として読むのが正解です。「Aルートは18分、Bルートは21分」という比較には十分使えます。しかし「18分で着く」という前提で家を出るのは、根拠のない賭けになります。
地図の時間がズレる3つの理由
1つ目は信号です。前述のとおり、公道では信号交差点部が旅行時間の30〜40%を占めます。これを完全に予測するのは、その時刻の信号サイクルと待ち順を知らない限り不可能です。
2つ目は走行空間。同じ経路でも、車道を走るか歩道を走るかで14.5km/hと11.6km/hの差が出ます。地図は「その道を通る」ことしか指示していないので、どちらを走るかは利用者次第。歩道を選べば地図の想定より遅くなります。
3つ目は坂と風です。試験走路の調査では、縦断勾配がいずれも1%以下という緩い条件でも、風速1〜2mの風で区間ごとの速度に変動が見られました。実際の街には橋や陸橋、河川敷への上り下りがあり、これらは距離に対して不釣り合いなほど時間を食います。地図の等高線や標高グラフを一度確認しておくと、なぜ毎回遅れるのかが腑に落ちることがあります。
予想時間を、自分のルート専用の数字に置き換える
地図の数字を信じられないなら、自分で係数を作ってしまうのが確実です。やり方は簡単で、いつものルートを3回走って実際の所要時間を記録し、その平均を地図の予想時間で割ります。1.3という数字が出たら、それがあなたのルートの補正係数です。以後は地図の予想に1.3を掛ければ、かなりの精度で当たります。
この係数は、走る時間帯によっても変わります。朝の通学時間帯と、人通りの少ない休日の午前では、歩行者の密度が違うので旅行速度も変わる。平日朝用と休日用の2つを持っておくと、使い勝手が上がります。
係数が1.5を超えるようなら、ルート自体を見直すサインです。信号や歩道の条件が地図の想定から大きく外れているということなので、別の経路を試す価値があります。数字にしておくと、感覚で「なんとなく遠回り」と判断するより、はるかに納得のいく比較ができます。
「20分と出たから20分前に出る」を続けると、遅刻の確率は驚くほど高くなります。原因は、予想時間に駐輪と施錠の時間、信号運の悪い日のブレ、雨の日の減速が含まれていないこと。対策は、地図の予想時間に1.2倍を掛け、さらに駐輪の5分を足した数字を自分の基準にすること。慣れてきたら、実測した自分のルートの所要時間に置き換えていけば、地図に頼らずに済みます。
自転車所要時間から出発時刻を逆算する4ステップ
手順を4つに分けて考える
①ルートの距離を地図で測る。②信号の多い市街地なら9.6km/h、歩道中心なら11.6km/h、車道中心で信号が少ないなら14.5km/hを選んで割る。③駐輪と施錠、着替えや汗を拭く時間として5〜10分を足す。④天候や体調が悪い日のために、さらに全体の2割を余裕として足す。この4段で出した時刻が、実際に家を出るべき時刻です。
例えば片道4kmで市街地ルートなら、4÷9.6×60で約25分。駐輪と身支度で7分、余裕として2割の6分を足して合計38分。到着したい時刻の38分前が出発時刻になります。地図が表示する「16分」とは倍以上違いますが、こちらのほうが実際に間に合います。
この計算を一度やっておけば、あとは毎日同じ時刻に出るだけです。所要時間の見積もりは、精密さより再現性が大事。多少余裕を持ちすぎても、遅刻して走るより安全で、結果的に気持ちも楽になります。
| シーン | 使う速度 | 上乗せする余裕 |
|---|---|---|
| 中高生の通学(2〜4km・歩道中心) | 9.6km/h | 駐輪場の混雑分として10分 |
| 片道5〜10kmの通勤 | 11.6km/h | 身支度と汗対策で10分+2割 |
| 買い物・送迎(1〜3km) | 9.6km/h | 駐輪と施錠で5分 |
| 週末のサイクリング(20km以上) | 14.5km/h | 休憩と補給で1時間あたり10分 |
雨・向かい風・重い荷物は「距離を1.2倍」で見る
条件の悪い日に別々の補正値を用意しても、朝は使いません。実用的なのは、雨・強い向かい風・重い荷物のいずれかに当てはまる日は、距離を1.2倍にして同じ式に入れる、という単純なルールです。5kmなら6kmとして計算し、市街地なら約38分と見る。これで多くの日は収まります。
風の影響は思っている以上に大きく、試験走路の調査でも風速1〜2m程度で区間速度に変動が出ました。研究の中では、日平均風速が5m/sを超えると自転車の利用が顕著に減少するという別の研究も引用されています。向かい風の日は、速度が落ちるだけでなく、疲労で後半さらに落ちるのが実際のところです。
雨の日はさらに、視界の悪化、ブレーキの効きの低下、路面のスリップという安全面の問題が加わります。傘を差しての運転は違反であり、レインウェアを着る前提で時間を組む必要があります。雨の日だけ所要時間が読めないという人は、装備が足りていない可能性が高いです。

「駅まで歩いて、満員電車に揺られて、また歩く」。この毎日を自転車に置き換えられないかと考えたとき、最初に立ちはだかるのが「うちの距離で本当に通えるのか」という疑…
遅れそうな日は、急ぐより切り替える
出発が遅れた朝に、信号を1つ2つ無視して取り返そうとするのは最悪の判断です。前述のとおり信号無視の反則金は6,000円で、2026年4月1日以降は16歳以上なら青切符の対象になります。取締りを受ければ、その場で数分は確実に失われます。
現実的な選択肢は3つです。1つは、そのまま遅れる前提で連絡を入れること。2つ目は、途中まで自転車で行って駅から電車に乗り換えること。3つ目は、その日は自転車をあきらめること。どれも「急ぐ」より速く、確実です。
そしてもっと大事なのは、遅れそうになる朝が月に何度もあるなら、そもそも見積もりが甘いという事実です。1週間、実際にかかった時間を測って平均を取ってください。そのうえで出発時刻を5分早める。所要時間の問題のほとんどは、この一手で解決します。
まとめ|9.6km/hから逆算すれば時間は読める
自転車の所要時間は、走る速さではなく止まる回数で決まります。国土技術政策総合研究所の実走調査が示したとおり、信号のない試験走路では16.8km/hで走れる人が、市街地では9.6km/hまで落ちる。この落差を知っているかどうかが、毎朝5分の余裕を生みます。最初の一歩として、今日の帰り道でいつものルートの信号の数を数えてみてください。それだけで、自分専用の所要時間の目安が作れます。
本記事の速度データは国土交通省・国土技術政策総合研究所の公開資料、反則金は警察庁の公表資料に基づきます。制度や公表値は改定されることがあるため、最新情報は各公式サイトでご確認ください。
参考:自転車の走行空間等の違いによる旅行速度の差異に関する分析(国土技術政策総合研究所)/自転車の活用に関する現状について(国土交通省)/自転車の反則行為と反則金の額(警察庁)/安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン(国土交通省・警察庁)/Google マップ ヘルプ「経路を検索する」

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