信号待ちの車列の脇を、自転車でスルスルと前に出ていく。渋滞している道で、止まっている車の左をすり抜けて先頭へ。通勤や通学で毎日自転車に乗っていれば、一度もやったことがない人のほうが少ないはずです。ところが2026年4月1日に自転車へ青切符(交通反則通告制度)が導入されてから、この「すり抜け」が違反になるのかどうかを心配する声が急に増えました。
先に結論を言うと、道路交通法に「すり抜け」という違反名は存在しません。取り締まられるとしたら、そのすり抜けのやり方と場所が、追越し違反・割込み等・通行区分違反・横断歩行者等妨害等といった別の違反名に当てはまったときです。そして反則金は3,000円・5,000円・6,000円・12,000円と、違反名ごとにはっきり分かれています。
この記事では、警察庁の自転車ルールブックと道路交通法の条文をそのまま突き合わせて、「左端をまっすぐ進んで前に出るだけならどうなるのか」「どこから先が割込みになるのか」「追い越してはいけない場所はどこか」を、条文と反則金額でひとつずつ仕分けします。2026年4月に新しく加わった、抜かれる側の自転車にかかる義務まで含めて整理していきます。
・道交法に「すり抜け」の条文がない理由と、代わりに問われる4つの違反名
・左端を直進して前に出る「追い抜き」と、進路を変える「追越し」の線引き
・交差点・横断歩道の手前30メートルという、追い越してはいけない場所
・2026年4月に増えた、抜かれる側の自転車の義務(反則金5,000円)
自転車の「すり抜け」は違反なのか——道交法に、その違反名はない

道路交通法を全部めくっても「すり抜け」という条文は出てこない
まず押さえておきたいのは、道路交通法に「すり抜け禁止」という規定が存在しないという事実です。警察庁が公表している自転車をはじめとする軽車両の反則行為と反則金の額の一覧にも、すり抜けという反則行為名は載っていません。載っているのは、追越し違反・割込み等・通行区分違反・横断歩行者等妨害等・安全運転義務違反といった、行為の中身を条文で定義した名前です。
つまり「すり抜け」は、私たちが日常で使っている俗称にすぎません。同じようにスルスルと前に出る動きでも、車道の左端を通ったのか、進路を変えて車の右側を通ったのか、歩道に乗り上げたのか、停止している車の前に入り込んだのかで、当てはまる条文がまったく変わります。ここを混ぜて「すり抜けは違反か」と考えると、答えが出ません。
逆に言えば、違反名さえ分かれば反則金も分かります。追越し違反と通行区分違反は6,000円、割込み等は5,000円、路側帯進行方法違反と歩道徐行等義務違反は3,000円。この記事ではこの数字を軸に仕分けていきます。ただし、どの条文にも当てはまらない走り方であっても、他人に危害を及ぼすような速度と方法で走れば安全運転義務違反(6,000円)が残っている点には注意してください。
追越し=道路交通法第2条第1項第21号の定義では「車両が他の車両等に追い付いた場合において、その進路を変えてその追い付いた車両等の側方を通過し、かつ、当該車両等の前方に出ること」。進路を変えるという要素が入っているのがポイントで、進路を変えずに横を通り過ぎて前に出る動きは、法律上の追越しには当たりません(一般に「追い抜き」と呼ばれます)。
「追越し」と「追い抜き」を分けるのは、進路を変えたかどうか
結論から言えば、車道の左側端をそのまま直進して停止中の車の横を通り過ぎるだけなら、それは法律上の追越しではありません。追越しの定義に「その進路を変えて」という条件が入っているからです。左端をキープしたまま前に出た場合、追越しの方法を定めた第28条(前車の右側を通行しなければならない)も、追越しを禁止する場所を定めた第30条も、そのままの形では適用されません。
根拠はもうひとつあります。自転車に左側端通行を義務づけている第18条第1項には、「ただし、追越しをするとき、(中略)道路の状況その他の事情によりやむを得ないときは、この限りでない」というただし書きが付いています。追越しは左側端通行の例外として、法律があらかじめ想定している行為なのです。追越しそのものが禁止されているわけではない、というのが出発点になります。
ここで注意したいのは、この区別が「安全だから許される」という意味ではないことです。あくまで条文の当てはめの話であり、次の見出し以降で見るように、同じ左端の直進でも割込み等や横断歩行者等妨害等に当たる場面があります。また、左端を進んでいるつもりでも車体半分が車線側にはみ出していれば、それは進路変更を伴う追越しと評価される余地が出てきます。
2026年4月1日から、16歳以上のすり抜けは反則金の対象になった
2026年4月1日、自転車に交通反則通告制度(青切符)が導入されました。対象は16歳以上の運転者で、16歳未満の者による違反については原則として指導警告が行われます。これまで自転車の違反は赤切符(刑事手続)しかなく、軽い違反だと事実上取り締まりにくい状態でしたが、青切符の導入で「反則金を納めれば刑事手続に移行しない」処理が可能になりました。
ここで誤解されやすいのが、制度の導入で取り締まりの基準そのものが厳しくなったわけではないという点です。警察庁は自転車ルールブックで「警察では、自転車の交通違反を認知した場合、基本的には現場で指導警告を行います」とし、この基本的な考え方は青切符の導入前後で変わらないと明記しています。変わるのは検挙した後の手続きです。
ただし、すり抜けが絡む違反には注意が必要です。検挙対象となる「違反態様が悪質・危険なもの」の例として、ルールブックは「違反により、歩行者が立ち止まったり、他の車両が急ブレーキや急な進路変更といった回避措置を引き起こしたりしたとき」を挙げています。すり抜けはまさに、車や歩行者に回避行動を取らせやすい走り方です。速度超過や信号無視と違って、違反そのものより「結果」で線を引かれやすいことを覚えておいてください。

車列の左を抜けたとき、実際にはどの違反名がつくのか
左側端をまっすぐ進んで前に出るだけなら「追い抜き」の扱い
渋滞や信号待ちの車列の左を、車道の左側端をキープしたまま直進して前に出る。このパターンが最も多いはずですが、進路を変えていない以上、追越しの定義には当てはまりません。自転車は第17条第4項・第18条第1項により、そもそも道路の左側端に寄って通行することが義務づけられているので、左端を走ること自体は本来の姿です。
警察庁の自転車ルールブックは、自転車の右側通行を「逆走」として通行区分違反(反則金6,000円)の対象と明記する一方、左側端の通行は原則そのものとして説明しています。矢羽根型路面表示についても「自転車で通行するときはこれを目安としましょう」と書かれており、左端寄りの通行が前提になっていることが読み取れます。
ただし落とし穴が2つあります。ひとつは後述する第32条の割込み。もうひとつは、車の左を通っている最中に車が左折を始めた場合で、条文の当てはめとは別に、物理的にはこれが最も危ない瞬間です。左端を通っていれば安全、という話ではありません。
進路を変えて車の右側から抜けば、そこから先は「追越し」になる
車列の右側に出て抜いていく、あるいは車線の中央寄りに進路を変えて前車を抜く。この動きは追越しの定義をそのまま満たすので、第28条以下のルールが全部かかってきます。第28条第1項は「他の車両を追い越そうとするときは、その追い越されようとする車両の右側を通行しなければならない」と定めており、右側から抜くこと自体は正しい方法です。
問題は場所と方法です。第30条が定める追越し禁止場所に当たれば追越し違反となり、反則金は6,000円。さらに第28条第4項は、追越しをする側に「反対の方向又は後方からの交通及び前車又は路面電車の前方の交通にも十分に注意し、かつ、(中略)できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない」という義務を課しています。前だけでなく、後ろと対向も見ることが条文上の要求です。
典型的なのは、片側1車線の道で前の車が右折待ちで止まっている場面です。右から抜けば追越しの条文が全部かかり、左から抜けば左折車や歩行者との接触リスクが上がります。迷ったら止まって待つのが、どちらのリスクも取らない選択です。
止まっている車の前に入り込むと、第32条の「割込み等」で5,000円
ここが、すり抜けで最も見落とされている条文です。道路交通法第32条(割込み等の禁止)は「車両は、法令の規定若しくは警察官の命令により、又は危険を防止するため、停止し、若しくは停止しようとして徐行している車両等又はこれらに続いて停止し、若しくは徐行している車両等に追いついたときは、その前方にある車両等の側方を通過して当該車両等の前方に割り込み、又はその前方を横切つてはならない」と定めています。
この条文の主語は「車両」であり、自転車も軽車両として車両に含まれます。信号や渋滞で止まっている車列に追いついて、その側方を通過して前に割り込む行為が、正面から対象になっているわけです。反則金は5,000円。追越し違反の6,000円より安いものの、赤信号の車列を抜けて先頭に出る動きは、追越しよりもこちらの条文で捉えられる可能性があります。
注意したいのは、条文が禁じているのが「側方を通過して前方に割り込む」ことと「前方を横切る」ことの2つだという点です。車の前に入り込む動き、あるいは車の鼻先を横切る動きが対象になります。停止車両の左を通って、そのまま車の前には入らずに直進していく場合との線引きは、現場の状況次第です。判断に迷う場面が多い条文なので、先頭の車の鼻先には入らない、という運用が現実的な落としどころになります。
歩道に逃げてすり抜ければ、今度は「通行区分違反」6,000円
車道でのすり抜けを避けようとして歩道に上がる人がいますが、これは別の違反に乗り換えているだけです。自転車は軽車両であり、警察庁のルールブックも「原則として、歩道又は路側帯と車道の区別のある道路では、車道を通行しなければなりません(法第17条第1項)」「これに違反すると、通行区分違反(反則行為)として、反則金(6,000円)の対象となります」と明記しています。
歩道を通行できるのは、①標識・標示で歩道を通行できるとされているとき、②13歳未満の方若しくは70歳以上の方又は一定の身体障害を有する方が運転するとき、③車道又は交通の状況に照らして歩道通行がやむを得ないと認められるとき、の3つに限られます(法第63条の4第1項)。
歩道を通行できる場合でも、歩道の中央から車道寄りの部分を徐行しなければならず、歩行者の通行を妨げるときは一時停止が必要です。違反すると歩道徐行等義務違反として反則金3,000円。徐行は「直ちに停止することができるような速度」なので、車道と同じペースで歩道を走れば条件を満たしません。歩道はすり抜けの迂回路にはなりません。
| 走り方 | 当てはまりうる反則行為名 | 根拠条文 | 反則金 |
|---|---|---|---|
| 停止車列の前に入り込む | 割込み等 | 第32条 | 5,000円 |
| 進路を変えて右から抜く(禁止場所) | 追越し違反 | 第28条〜第30条 | 6,000円 |
| 歩道に上がって抜く | 通行区分違反 | 第17条第1項 | 6,000円 |
| 歩道を徐行せず抜く | 歩道徐行等義務違反 | 第63条の4第2項 | 3,000円 |
| 横断歩道前の停止車両の横を止まらず抜く | 横断歩行者等妨害等 | 第38条第2項 | 6,000円 |
| 対向車線側にはみ出して抜く | 通行区分違反 | 第17条第4項 | 6,000円 |
| 路側帯を歩行者の横で減速せず抜く | 路側帯進行方法違反 | 第17条の3第2項 | 3,000円 |
信号待ちの先頭まで出るのは、どこからアウトになるのか

第32条が禁じているのは「側方通過」ではなく「前方への割込み」
赤信号で止まっている車列の左を通って先頭まで出る——この行為が違反かどうかの答えは、第32条の文言をどこで区切るかにかかっています。条文は「その前方にある車両等の側方を通過して当該車両等の前方に割り込み、又はその前方を横切つてはならない」と書かれており、禁じられているのは側方通過そのものではなく、その先にある「前方への割込み」と「前方の横切り」です。
この条文の罰則は第120条第1項第2号に置かれ、青切符が適用される反則行為としては「割込み等」の名前で反則金5,000円と定められています。条文の対象になる「停止し、若しくは停止しようとして徐行している車両等」には、赤信号で止まっている車も、渋滞で止まりかけている車も含まれます。信号待ちの車列は、まさに条文が想定している場面です。
実務上どう考えるかというと、先頭車両の停止線の前に出て、車の鼻先に自分の車体を入れる形になった時点で、割込みと評価される危険が一気に高まります。通勤・通学で毎日同じ交差点を通るなら、「先頭の車と並ぶところまで」「車の前には出ない」というマイルールを作っておくのが現実的です。不安なら、最後尾で車と同じように待つのが最も確実です。
横断歩道の手前で止まっている車の横を抜けるときは、一時停止が義務
すり抜けに関する規定のなかで、最も明確に「一時停止しろ」と書かれているのがここです。警察庁の自転車ルールブックは第38条第2項について、「横断歩道又はその手前の直前で停止している車両がある場合において、その車両の側方を通過してその前方に出ようとするときは、一時停止しなければなりません」と説明しています。違反すると横断歩行者等妨害等(反則行為)として反則金6,000円です。
ルールブックは理由まで書いています。「横断歩道を渡ろうとしている歩行者が停止車両の死角に入り、自転車の運転者から見えず、事故の危険があるため」。つまり、車が止まっているのは歩行者を渡らせているからかもしれず、その歩行者は車体に隠れて自転車からは見えない、という構造です。すり抜けで歩行者とぶつかる事故の典型パターンが、まさにこれにあたります。
実際の走り方に落とすと、横断歩道の手前で車が止まっていたら、その横を抜ける前に必ず足を着いて止まる。速度を落とすだけでは条文の「一時停止」を満たしません。歩行者がいないことを目で確認してから再発進します。急いでいるときほど省略したくなる動作ですが、ここは反則金6,000円と、歩行者との接触という2つのリスクが重なる場所です。
横断歩道の手前で止まっている車の横を抜けるときの一時停止(第38条第2項・反則金6,000円)は、車が「なぜ止まっているか」が分からない状況で発動します。ハザードを出している車、バス停に寄せているバス、荷下ろし中のトラック——止まっている理由が読めない車の横を抜けるときは、いったん止まる。これだけで、すり抜けの事故リスクの大半は削れます。
二段階右折の待機は「すり抜け」ではなく、法律が指定した正しい方法
交差点の左端まで進んで、そこで向きを変えて次の青信号を待つ二段階右折。これを「すり抜けて先頭まで出る行為」と同じだと思っている人がいますが、法律上はまったく別物です。第34条第3項は、自転車が右折するときは「あらかじめその前からできる限り道路の左側端に寄り、かつ、交差点の側端に沿って徐行しなければならない」と定めています。左端に寄ることが、条文上の要求なのです。
この方法を守らないと交差点右左折方法違反(反則行為)として反則金3,000円の対象になり、さらに信号交差点で二段階右折をしなかったときには信号無視(反則行為)として反則金6,000円の対象になる、とルールブックは明記しています。自動車と同じように車線の中央に出て右折すると、より重い違反名がつくということです。
使い分けの目安はシンプルです。右折したいなら左端に寄って交差点の左奥まで進み、そこで向きを変えて待つ。直進したいだけなら、無理に先頭まで出る必要はありません。二段階右折で左端を進む動きと、直進したいだけなのに先頭へ出る動きは、見た目が似ていても目的も法的な位置づけも違います。混同すると、必要のない場面で割込み等のリスクを取ることになります。

右に寄りたいのに手を出していいのか迷って、結局そのままハンドルを切ってしまう。自転車に乗っていて、そんな経験はありませんか。ハンドサインは「ロードバイクに乗る人…
30メートルで覚える、追い越してはいけない場所
交差点・踏切・横断歩道と、その手前30メートル以内
進路を変えて抜く「追越し」をする場合、場所によっては行為そのものが禁止されます。第30条第3号が挙げているのは「交差点(当該車両が第36条第2項に規定する優先道路を通行している場合における当該優先道路にある交差点を除く。)、踏切、横断歩道又は自転車横断帯及びこれらの手前の側端から前に30メートル以内の部分」です。
30メートルという距離は、感覚だと意外に長く感じます。信号機のある交差点なら、横断歩道の手前に引かれた停止線よりさらに20メートル以上手前から、すでに追越し禁止区間に入っているイメージです。街中の交差点間隔が短い道では、区間の大半が禁止区域に重なることもあります。違反すると追越し違反として反則金6,000円です。
実際に気をつけたいのは、交差点の手前で右折待ちの車が詰まっている場面です。ここで進路を変えて抜こうとすると、追越し禁止場所での追越しに当たる可能性があります。優先道路を通行している場合の交差点は条文上除かれていますが、自分が走っている道が優先道路かどうかを走りながら判定するのは難しいので、交差点が近づいたら抜かない、と決めておくほうが安全です。
曲がり角付近・上り坂の頂上付近・急な下り坂・トンネル
第30条第1号は「道路の曲がり角付近、上り坂の頂上付近又は勾配の急な下り坂」、第2号は「トンネル(車両通行帯の設けられた道路以外の道路の部分に限る。)」を挙げています。いずれも、対向車や前方の状況が見えない場所という共通点があります。
自転車で走ると、この4か所は速度差が出やすい場所でもあります。急な下り坂では自転車のほうが車より速く流れることがあり、前の車を抜きたくなる場面が生まれます。しかし勾配の急な下り坂は追越し禁止場所であり、しかも自転車のブレーキは下りで制動距離が伸びます。抜いた直後に前車が減速すれば、逃げ場がありません。
さらに、信号機がなく左右の見通しがきかない交差点や道路の曲がりかど付近では、第42条により徐行が義務づけられています。違反すると徐行場所違反として反則金5,000円。追越し禁止と徐行義務が重なる場所では、抜かないだけでなく速度そのものを落とす必要があります。見通しの悪い場所は、すり抜けを考える場所ではないということです。
自転車を追い越す場合だけ対象外になる理由
第30条が自転車の追越しを対象から外しているのは、自転車のように車幅が狭く速度も遅い車両を抜く際は、対向車線にはみ出さずに同一車線内で完結できることが多いからです。追越し禁止場所の趣旨が「対向車線にはみ出す危険」にある以上、はみ出さずに済む相手は対象にしなくてよい、という整理になります。
ただし自転車が自動車を追い越す場合は、この除外は効きません。自動車を抜くには車線をまたぐ動きになり、条文の想定するリスクが発生するからです。すり抜けの文脈で問題になるのはほとんどが「自転車が自動車を抜く」ケースなので、除外規定を根拠に安心するのは筋違いです。
また、前の自転車を抜くこと自体にも落とし穴があります。相手が突然ふらついたり、右にコースを変えたりする可能性があるからです。抜くときは相手との間隔を取り、ベルではなく声かけや速度調整で存在を知らせるのが基本になります。歩道上で歩行者を抜く場合は、そもそも徐行が義務であり、歩行者の通行を妨げるときは一時停止が必要です。
すり抜けが事故になるとき、型は4つしかない
左折巻き込み——自転車対自動車の右左折時事故は7,581件
警察庁の自転車ルールブックに載っている統計を見ると、すり抜けのリスクがどこにあるかがはっきりします。令和2年から令和6年の合計で、自転車と自動車の死亡・重傷事故は27,368件。事故類型別では出会い頭が14,982件(54.7%)、右左折時が7,581件(27.7%)、追突が1,081件(3.9%)、追越追抜時が1,046件(3.8%)、その他が2,678件(9.8%)です。
注目すべきは、抜いている最中(追越追抜時)が1,046件で全体の3.8%にとどまる一方、右左折時が7,581件と7倍以上あることです。すり抜けの本当の危険は、追い越し終えた地点にあります。
特に大型車は死角が広く、大阪府警は「トラックには大きな死角が存在します」「アイコンタクトを行い、相手が自分の存在に気付いてくれているか確認しましょう」と注意喚起しています。ウインカーを出していない車でも曲がる可能性はあるので、左を抜けるときは車の前輪の向きとドライバーの視線を見る癖をつけてください。
ドア開放——止まっている車の横を抜けた瞬間に開く
停車中の車の左を抜けるとき、運転席や後部座席のドアが突然開くケースです。反則金一覧には「安全不確認ドア開放等」(第71条第4号の3)が反則金5,000円で載っており、ドアを開ける側にも注意義務が課されています。ただし違反名がついても、当たった自転車が転ぶ物理は変わりません。
自転車側でできる対策は、停車中の車の横を通るときに車体から距離を取ることと、速度を落とすことの2つだけです。ドアが開き始めてからブレーキをかけて止まれる距離は、速度が上がるほど急激に伸びます。車内に人が乗っているか、ブレーキランプが消えたばかりか、ハザードが点いているかを見るだけでも、開く可能性は読めます。
駐停車車両が連続している道では、無理に脇を抜けず、後方を確認してから車線側に出るか、車列が動くのを待つ判断もあります。ルールブックは「連続した駐車車両等のため車道の左側を通行することが難しいとき」を歩道通行がやむを得ない場合の例に挙げており、歩道に上がって押して歩く選択肢も残っています。
横断歩行者——停止した車列が歩行者を隠す
3つ目は、車列の左をすり抜けた先で、車の間から歩行者が出てくるパターンです。自転車対歩行者の事故で歩行者が死亡または重傷となった事故を衝突地点別に見ると、令和6年は歩道144件(42.4%)、車道・路側帯等100件(29.4%)、交差点82件(24.1%)、その他14件(4.1%)でした。車道と交差点を合わせると半数を超えます。
停止している車列は、歩行者から見れば「車が止まってくれた」というサインです。だから歩行者は車の間を抜けて渡ろうとします。そこへ自転車が車列の左を走ってくると、双方から相手が見えないまま接近することになります。これが第38条第2項が一時停止を義務づけている理由そのものです。
対策は単純で、車列の切れ目に差しかかるたびに速度を落とすこと。横断歩道、コンビニの出入口、路地の交差点の前後には必ず切れ目ができます。切れ目=歩行者や車が出てくる穴、と読み替えるだけで危険の読み方が変わります。
失敗パターン:停車中のバスの左を抜けようとして、降車客と鉢合わせる
通学路でよく起きるのが、バス停に停車中のバスの左側をすり抜けようとして、降りてきた乗客と正面から出くわすケースです。バスの車体は高く長いため、前方が完全に見えません。しかも降車客はバスの前を横切って道路を渡ろうとすることが多く、自転車からは最後まで見えないまま接近します。
原因は「バスが止まっている=抜ける」と判断してしまうことにあります。止まっている理由が乗降であれば、その周囲には必ず歩行者が発生します。歩行者を立ち止まらせたり、避けさせたりすれば、警察庁が示す検挙対象の例「違反により、歩行者が立ち止まったり、他の車両が急ブレーキや急な進路変更といった回避措置を引き起こしたりしたとき」に当てはまり、指導警告ではなく青切符に進む可能性があります。
対策は、停車中のバスの左は抜けない、と決めることです。どうしても抜ける必要があるなら、バスの後部で一度止まって、車体の前方を確認できる位置まで首を出してから進みます。バス停の先で追い越しても、次のバス停でまた追いつかれるだけなので、得られる時間はほとんどありません。
| 乗り方・場面 | 現実的な走り方 | 優先して避けたい違反 |
|---|---|---|
| 片道10kmの自転車通勤 | 左端をキープし、先頭車両の前には出ない。交差点が近づいたら抜かない | 割込み等(5,000円) |
| 中学生・高校生の通学 | 16歳以上は反則金の対象。横断歩道前の停止車両の横は必ず一時停止 | 横断歩行者等妨害等(6,000円) |
| 子どもを乗せた電動アシスト | 車重が重く制動距離が伸びる。車列の脇はすり抜けず、後方で待つ | 安全運転義務違反(6,000円) |
| 週末のロードバイク | 速度が出るぶん追越しに当たりやすい。下り坂と曲がり角では抜かない | 追越し違反(6,000円) |
| 歩道が広い商業地 | 歩道に逃げても徐行義務がかかる。押して歩くほうが早い場面もある | 歩道徐行等義務違反(3,000円) |
意外と知られていない、抜かれる側の自転車にも増えた義務
2026年4月から、車が自転車の右を通過するときの規定ができた
すり抜けの話をするとき、ほとんどの人が「自転車が抜く側」だけを見ています。ところが2026年4月の改正で新しく入った規定は、むしろ「自転車が抜かれる側」を扱っています。道路交通法第18条第3項は、車両(自転車等を除く)が同一方向に進行している自転車等の右側を通過する場合(追い越す場合を除く)に、十分な間隔がないときは「当該特定小型原動機付自転車等との間隔に応じた安全な速度で進行しなければならない」と定めました。
会津若松市の公表資料によれば、この規定に違反した自動車側は3月以下の拘禁刑又は5万円以下の罰金、反則金は普通車7,000円、違反点数2点とされています。これまで「できる限り安全に」という抽象的な義務しかなかった場面に、間隔がないなら速度を落とせという具体的な要求が入ったかたちです。
自転車側にとっては歓迎すべき改正に見えます。実際、車にギリギリで抜かれる恐怖は、車道を走るのをためらわせる最大の理由のひとつです。ただし、この条文には続きがあります。そこが、ほとんど報じられていない部分です。
第18条第4項は「前項に規定する場合においては、当該特定小型原動機付自転車等は、できる限り道路の左側端に寄つて通行しなければならない」と定めています。車が右側を通過しようとしている場面では、自転車の側にも左に寄る義務が生じるということです。違反すると「被側方通過車義務違反」として反則金5,000円。車を守るための規定ではなく、双方に義務を割り振った規定として読む必要があります。
「被側方通過車義務違反」5,000円は、抜かれる自転車にかかる
反則行為名の一覧を見ると、第18条第4項には「被側方通過車義務違反」という名前がつき、反則金は5,000円と定められています。聞き慣れない名前ですが、「側方を通過される車(=抜かれる側)の義務に違反した」という意味です。自転車の反則金のなかでは中位の金額にあたります。
気をつけたいのは、この義務が常時発動するわけではない点です。条文は「前項に規定する場合においては」と限定しており、車が自転車の右側を通過しようとしていて、かつ十分な間隔がない場面が前提です。いつでも左端にへばりつけという話ではなく、後ろから車が抜きにきている場面で、こちらも寄るという相互の義務になります。
実際の走り方への影響は小さくありません。車列の左をすり抜けている最中は、こちらが抜く側なので第18条第4項の場面ではありません。しかし車列が動き出して車のほうが速くなった瞬間、立場が入れ替わります。すり抜けている自転車は、車の流れが変わるたびに抜く側と抜かれる側を行き来していることになります。これが、すり抜けが法的に整理しにくい理由でもあります。
大型車の警報装置は、時速30km以下・左側0.9〜4.25mまでしか見ていない
左折巻き込みを防ぐため、国土交通省は側方衝突警報装置に関する国際基準(協定規則第151号)を導入しました。対象は車両総重量8トンを超える貨物自動車で、適用時期は新型車が令和4年5月から、継続生産車が令和6年5月からです。左折時に自転車と衝突する可能性がある場合に、視覚や音でドライバーに警報します。
ただし、この装置には作動条件があります。時速30km以下で走行中に左側方を走行中の自転車を検知できることが要件で、検知範囲は自動車の左側面0.9〜4.25mの範囲、前輪タイヤ付近は0.25m〜0.9mの範囲と定められています。つまり車体にぴったり寄りすぎた位置や、想定より外側を走っている自転車は、範囲から外れる可能性があります。
加えて、対象は8トンを超える貨物自動車に限られます。街中で最も数が多い小型トラックやワンボックス、乗用車には義務がありません。装置が普及したから左折巻き込みが消える、という話にはならないということです。自転車側は従来どおり、大型車の左に長く留まらないという原則を守るのが確実です。
青切符を切られたあと、実際に何が起きるのか
指導警告で終わる違反と、検挙に進む違反の境目
警察庁のルールブックは、検挙の対象となる「悪質・危険な違反」を5つに整理しています。①刑事手続で処理される重大な違反(酒酔い運転・酒気帯び運転、妨害運転など)、②反則行為の中でも重大な事故につながるおそれが高い違反(遮断踏切立入り、自転車制動装置不良、携帯電話使用等(保持))、③違反により実際に交通事故を発生させたとき、④違反の結果、実際に交通への危険を生じさせたり、事故の危険が高まっているとき、⑤指導警告されているにもかかわらず、あえて違反を行ったときです。
すり抜けに関係する違反名は、ほとんどが④のルートで検挙に進みます。追越し違反や割込み等は、それ自体が①②に並ぶほど重大とはされていませんが、車に急ブレーキを踏ませたり、歩行者を立ち止まらせたりした瞬間に④に該当します。また「違反を同時に2つ以上行い、事故の危険が高まっているとき」も④の例として挙げられています。すり抜けは信号無視や逆走と重なりやすいので、ここも要注意です。
⑤には、警察官の指導警告に従わず違反を続けたときや、指導取締り中の警察官の姿を認めながら違反をしたときが例示されています。取り締まりを見かけてから止まっても、その前の走り方は見られていると考えたほうがいいでしょう。
導入初月2,147件の内訳が示す、取締りの実像
制度が始まった2026年4月の1か月間に交付された青切符は2,147件(暫定値)でした。内訳は指定場所一時不停止が846件(全体の40%)、携帯電話使用等(保持)が713件(33%)、信号無視が298件(14%)、遮断踏切立入りが156件(7%)、通行区分違反が63件(3%)です。一方、指導警告票の交付件数は135,855件にのぼりました。
この数字から読み取れることは2つあります。ひとつは、青切符が出ているのは一時不停止・ながらスマホ・信号無視の3つで9割近くを占めていて、追越し違反や割込み等といった「すり抜け系」の違反名がほとんど出ていないこと。もうひとつは、指導警告票が青切符の60倍以上あり、実際の現場はやはり警告中心で動いているということです。2025年の月平均検挙件数は4,268件でしたから、検挙総数はむしろ減っています。
ただし、これを「すり抜けは取り締まられない」と読むのは早計です。統計に出ていないのは、すり抜け単体では④の要件を満たしにくいからであって、歩行者や車に回避行動を取らせれば別の話になります。取り締まりの少なさと、事故のリスクの大きさは、まったく連動していません。
仮納付は7日以内、通告を受けた場合は10日以内
青切符を交付された場合の流れは、ルールブックに手順として書かれています。①違反をしたと認めるときは、取締り(告知)を受けた翌日から原則7日以内に、銀行や郵便局の窓口に「納付書」を持参して反則金を仮納付する。②仮納付をすると刑事手続に移行せず、取調べや裁判を受けるために出頭する必要もなくなります。
③仮納付をしなかった場合は、青切符に記載された指定の期日に交通反則通告センターに出頭し、通告書と納付書の交付を受けます。遠隔地に住んでいるなどの理由で出頭できないときは、通告書と、反則金に送付費用が加算された納付書が送付されます。④通告を受けた翌日から原則10日以内に納付すれば、刑事手続には移行しません。
なお、運転免許を持っている人が自転車で違反しても免許の点数は付きません。ただし公安委員会が著しく交通の危険を生じさせるおそれがあると認めるときは、6月を超えない範囲で免許の停止処分が行われることがあります。また14歳以上の人が16種別の違反で3年以内に2回以上反復して検挙されたり事故を起こしたりすると、自転車運転者講習(3時間・受講料が必要)の受講が命じられます。
失敗パターン:「注意されただけ」で済むと思い込んで、同じ道で繰り返す
2つ目の失敗パターンは、一度指導警告票をもらったあとの行動です。青切符ではなかったから大したことはないと考えて、翌日から同じ交差点で同じすり抜けを続ける。これがルールブックの⑤「違反であることについて指導警告されているにもかかわらず、あえて違反を行ったとき」に当てはまり、次は青切符に進みます。
原因は、指導警告を「セーフだった」と受け取ってしまうことにあります。指導警告票の目的は、ルールブックによれば「自分自身が行った行為が交通違反になること、自らの違反の危険性や交通ルールを遵守すべきことの重要性を理解し、再び違反をさせないこと」です。つまり、次は警告では済まないという宣告でもあります。
対策は、警告を受けた場所と違反名をメモしておくことです。そのうえで、その交差点だけはルートを変えるか、必ず車列の後ろで待つと決めます。通勤・通学は毎日同じ道を通るため、一度指摘された場所は高確率で再び通ります。ルートかルールのどちらかを変えないと、同じ結果が繰り返されるだけです。

「駅まで歩いて、満員電車に揺られて、また歩く」。この毎日を自転車に置き換えられないかと考えたとき、最初に立ちはだかるのが「うちの距離で本当に通えるのか」という疑…
まとめ:自転車のすり抜けと違反の境界線は、走る前に決めておく
すり抜けが危ないのは、抜いている最中ではなく抜き終わった直後です。自転車と自動車の死亡・重傷事故27,368件のうち、追越追抜時は1,046件に対し、右左折時は7,581件。前に出たところで曲がってこられる事故が、圧倒的に多いという結果が出ています。条文を全部覚える必要はありません。停止している車の前には出ない、交差点が近づいたら抜かない、止まっている車の横は速度を落とす。この3つだけで、割込み等・追越し違反・横断歩行者等妨害等のいずれもほぼ避けられます。最初の一歩としては、明日の通勤で「先頭の車の前には出ない」を1回だけ試してみてください。到着時刻はほとんど変わらないのに、ヒヤリとする回数がはっきり減るはずです。なお、ブレーキの利きに不安があるときは自分で調整せず自転車店に見てもらってください。
※交通ルール・反則金額は改正されることがあります。最新の内容は警察庁 自転車ポータルサイト、自転車ルールブック(警察庁交通局)、e-Gov法令検索 道路交通法でご確認ください。事故の統計は警察庁「事故・違反の発生状況」、側方衝突警報装置は国土交通省の報道発表によります。

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